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日本と西洋における手洗いの起源と発展|日本の神社作法と西洋医学が交差する衛生管理のルーツとその普及

2025 9/23
生活・文化
09.23.2025
手を洗っているイラストの画像

手洗いは現代において衛生管理の基本とされていますが、その起源は古代にまでさかのぼります。本記事では、手洗いという行為がいつ、どのような目的で始まり、どのように現在のような習慣として定着していったのかを、宗教的・医学的・行政的視点から事実のみをもとに紹介します。

目次

日本における手洗いの起源

日本において手洗いの起源は、神社参拝の慣習にさかのぼります。古代、人が集まる場所といえば神社であり、神前に立つ前に口をゆすぎ、手を洗うという「お清め」の作法が行われていました。さらに古い時代には、川に入って身体全体を清める「禊(みそぎ)」が行われていたとされています(『古事記』の記述に基づく)。
特に、第十代・崇神天皇の治世(3世紀中頃~4世紀前半)に、初めて大規模な疫病が日本で流行したとき、神社に「手水舎(ちょうずや)」を設け、参拝前の手洗いやうがいを奨励したことが記録されています。この出来事は『日本書紀』に記述されており、当時、疫病により人口の半分以上が死亡したとされています。
このような宗教儀礼としての手洗いが、やがて日常生活にも波及し、食事の前やトイレの後にも手を洗う習慣へと変化していったのでしょう。

手水舎で手を清める女たち。明治時代の画像。
手水舎で手を清める女たち。明治時代|不明 – “Letters from Japan” by Mrs. Hugh Fraser, New York, The Macmillan company; London, Macmillan & co., ltd.. 1904, パブリック・ドメイン, リンクによる

手水の形式と変遷

3世紀から続く手水の習慣は、現代の神社でも確認できます。明治から大正にかけて出版された礼儀や作法の書籍には、日常生活における手水の使い方や、来客への手水の勧め方などが詳細に記述されていました。
また、日本で手洗いの習慣が広く一般に浸透したのは、戦後の学校教育の導入や水道インフラの整備が進んでからのことです。それ以前には、赤痢などの感染症が多く見られていました。

西洋における手洗いの医療的起源

19世紀半ば以前の西洋医学では、手洗いは一般的に行われていませんでした。病気の原因は、体内の体液バランスの崩れと考えられており、感染症に対する手洗いの有効性は理解されていませんでした。
このような中で、ハンガリー出身の医師イグナーツ・ゼンメルワイス(Ignaz Philipp Semmelweis, 1818–1865)が、手洗いの重要性を初めて医学的に指摘しました。

センメルヴェイス・イグナーツの肖像画の画像
イグナーツ・ゼンメルワイス|ボルショシュ・ヨージェフ / Albert Doctor – Ágnes Szemerédi: A fényképészet úttörői, OSZK blog, 2022 [1], パブリック・ドメイン, リンクによる

ゼンメルワイスは、ウィーン総合病院の第一産科と第二産科で、産婦の死亡率に大きな差があることを発見しました。第一産科では医学生が解剖後にそのまま出産に立ち会っており、死亡率が高く、第二産科では専門の産科医だけが担当していたため死亡率が低かったのです。
彼は、死体に付着した「粒子」が医師の手を介して感染症を引き起こしているのではないかと仮説を立てました。これを検証するため、次亜塩素酸カルシウムによる手指消毒を義務付けた結果、死亡率は18%から1%に減少しました。
しかしながら、この考え方は当時の医学界から受け入れられず、ゼンメルワイスは大きな反発を受けました。彼の理論は「センメルヴェイス反射」として、既存の常識に反する事実が拒絶される例として知られています。彼はのちに「手洗いの父」あるいは「消毒の父」と称されています。

消毒の定着と細菌学の発展

ゼンメルワイスの仮説が提唱された時期は、まだルイ・パスツールやロベルト・コッホによる細菌学の成立以前であり、病原体の存在自体が一般には理解されていませんでした。
19世紀末には、イギリスの外科医ジョゼフ・リスターが、手術器具や手の消毒によって手術の成功率を高めた事例を発表しました。このような流れの中で、手洗いと消毒が医療現場に徐々に浸透していきました。

日本における近代行政による普及

日本における近代的な衛生概念の導入は、明治時代初期に始まります。明治3年(1870年)、横浜に居住していた外国人が、英字新聞『JMM.』で日本人に「手洗い」の習慣を持つよう呼びかける記事を掲載しました。
明治10年(1877年)、横浜と長崎でコレラの大流行が発生したことをきっかけに、日本政府は衛生行政の確立に乗り出します。中心となったのは、蘭方医の長与専斎(ながよせんさい)であり、内務省衛生局の初代局長を務めました。
長与は、衛生概念の普及と制度化を進め、同年には「コレラ病予防法心得」が発布されました。この法令には、「手洗い」や「清潔」、「消毒」の実施が明記されており、日本における衛生政策のはじまりとして重要な位置づけを持ちます。
「衛生」という語は、長与によって命名されたものであり、中国古典『荘子』に由来します。

長与専斎の肖像画の画像
長与専斎|パブリック・ドメイン, リンク

手洗いの起源は、一義的に定義できるものではありません。日本では神道の禊から始まり、宗教的な意味合いを持っていました。西洋においては、19世紀に入ってようやく医学的な意義が認識されるようになり、ゼンメルワイスやリスターの実践を通じて手洗いが広がりました。さらに、近代国家としての日本が衛生行政を整備する中で、法制度としての手洗いの重要性が定着していきました。これらの事実を通して見えるのは、手洗いという行為が単なる生活習慣にとどまらず、宗教・科学・行政という異なる文脈の中で独自に発展し、交差して現在の形になったという点です。

オリジィだよ。ふつうに手を洗う。そんな何気ない行動も、じつは神さまへのお清めから、病気を防ぐ医学、そして国のルール作りまで、いろんな場面で大事にされてきたんだって。「ただ手を洗うだけ」じゃなくて、人類の知恵と歴史がつまってる行為なんだね!

参考文献: エピロギ / Wikipedia / NIKKEI STYLE / Sekisui Interior / Gigazine / 京すずめ文化観光研究所 / 歴史人

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